事業の趣旨・目的
ⅰ)事業の趣旨・目的
高齢社会において、高齢者が健康を維持していくためには口腔の健康が重要であり、歯科衛生士が重要な役割を果たす。厚生労働省「患者調査(2020)」によると、在宅医療を受けた推計外来患者数は1999年に比べ2.5倍に増えている。高齢化に伴い、身体的・精神的な理由により診療所に通所できない方が増えているため、歯科衛生士等が自宅や介護施設に訪問し口腔健康管理を行う「歯科訪問診療」は今後ますます需要が高まると想定される。
しかし、全国歯科衛生士教育協議会の調査(2022)によると、歯科衛生士養成校入学者数は過去最高であるのに対し、求人倍率は19.4倍と高い倍率を示しており、歯科衛生士の人材確保が難しい状況である。
そこで、訪問歯科衛生士を養成するリカレント教育モデルを構築し、キャリアアップや臨床現場へ復帰したい歯科衛生士が学べる教育の場を提供する。リカレント教育講座では、歯科訪問診療の基本を、オンライン学習を用いて学び、訪問先の室内環境を観察する情報収集スキルや、口腔内写真から歯科衛生診断を実施する演習プログラムを作成し、実践的なスキルを身に付ける。また、現場に復帰するにあたって必要な技術面でのスキルを学校の器具を使用したモデル実習にて実践し、即戦力となる訪問歯科衛生士を養成する。
当該学び直し講座が必要な背景について
1.歯科衛生士分野におけるリカレント教育の現状と課題
◆歯科衛生士不足の現状
歯科衛生士の知識や技術は常に進歩しており、高齢化に伴い患者の口腔の健康に対する意識やニーズも変化している。口腔の健康の維持や向上において歯科衛生士は重要な役割を果たす。
しかし、歯科衛生士名簿登録者数は298,664名に対し、就業歯科衛生士数は142,760人(一般財団法人歯科医療振興財団「衛生行政報告例(2021)」)と、およそ半分が資格を持ちながら歯科衛生士として就業していない状況であることが分かる。退職した理由では「出産・育児」が16.7%とトップであり、女性の就業が多いためライフイベントによる離職が多いことがわかる(公益社団法人日本歯科衛生士会「歯科衛生士の勤務実態調査報告書」(2020))。歯科衛生士養成校入学者数は過去最高であるのに対し、求人倍率は19.4倍と高い倍率を示しており(全国歯科衛生士教育協議会(2022))、歯科衛生士の人材確保が課題となっている。
◆超高齢社会における歯科訪問診療の必要性
日本では、要介護認定を受けている人口は約687万人であり、介護保険制度が始まった2000年4月時点の218万人と比較して、約3倍になっている(厚生労働省「介護保険事業状況報告(2022)」)。また、高齢者の歯科医療はこれまで外来を中心に行われ、歯科受診率は75~79歳をピークに、その後急速に減少している現状があった(厚生労働省「患者調査(2017)」。高齢化が加速する現代では、外来受診が困難な人が今後も増加すると想定される。
これを受け、2018年度診療報酬改定では、「質の高い在宅医療の確保」「ライフステージに応じた口腔機能の推進」の方針が打ち出され、在宅医療を受けた推計外来患者数は1999年に比べ2.5倍に増えている(厚生労働省「患者調査(2021)」)。歯科訪問診療を実施する歯科診療所は増加しており、今後歯科訪問診療に対応できる歯科衛生士の需要が高まると想定される。
◆歯科衛生士分野におけるリカレント教育の現状と課題
歯科訪問診療に関する基礎実習や臨床実習について、卒前教育を実施している大学は90%、リカレント教育に関しては41%の実施率となっている。また、卒前教育で施設への訪問診療同行見学を実施している大学は24%、在宅へは3~10%にとどまっている(「わが国の歯科大学・歯学部における訪問歯科診療に関する実習と附属病院における訪問歯科診療の実態」2020)。卒前教育は過去に比べて増加傾向にあるがまだ十分とはいえない状況であり、リカレント教育もさらなる充実が必要である。
◆訪問歯科衛生士育成のためのリカレント教育モデルの必要性
歯科衛生士が「再就職する際の障害の内容」としては、「勤務時間」がトップ(57.2%)となっている(公益社団法人日本歯科衛生士会「歯科衛生士の勤務実態調査報告書」(2020))。訪問歯科衛生士は短時間で収入を得られる働き方ができるため、「復職したいがフルタイムで働くのは難しい」と考える方にとって自由度の高い働き方を選択できる。
訪問歯科診療をテーマにリカレント教育講座を開設し、社会人が学び直しできる教育の場を提供することで、歯科衛生士の専門性の向上と患者への高品質なケアの提供を促進できると考える。
2.本事業開発プログラムのメリット
◆歯科訪問診療に特化した選択制のリカレント教育を実施
本事業では、超高齢社会のニーズに対応し、「歯科訪問診療」に特化したリカレント教育モデルを構築する。歯科訪問診療の主な業務内容である「一般歯科診療」「口腔衛生管理」や、診療の対象となる「高齢者・障害者・障害児」への歯科診療について学べる教材とし、訪問歯科衛生士として最新の知識・技術を身に付ける。
◆e-ラーニングで場所や時間にとらわれずに学習が可能
本事業にて開発するリカレント教育プログラムは、約8割をオンライン・e-ラーニングでの学習とし、場所や時間にとらわれずに学習できる教育モデルを構築する。プログラムは1カ月で完了する講座とし、実習は選択制により個人のニーズに応じてカスタマイズできる。働きながら学習する社会人でも無理なく講座に取り組むことができ、実現可能な教育モデルを構築する。
◆学習教材・添削の指導書により、教育モデルの再現性を確保
学習教材、シラバス、教員指導書及び評価手法をパッケージとして開発することにより教育モデルの再現性を確保する。どの講師でも授業を可能とし、全国で実施できる教育モデルを構築する。
